脳科学者・中野信子が考える「眠り」のチカラ
#5 睡眠という最高の癒やし
脳科学者 中野信子さん
脳科学にまつわる多数の著作を発表し、人の行動や思考の習性について解説を重ねてきた中野信子さん。実は、ロフテーのLT-010(キューブ)を愛用しています。中野さんが枕選びにこだわるのは、睡眠の重要性をよく知っているから。
この連載では、中野信子さんが考える眠りのチカラについて紹介していきます。
眠ることが健康につながる理由
コロナ禍においては頻繁に「免疫力」という言葉が飛び交いました。「免疫力」とは科学的にはやや定義のあいまいな、取り扱いの難しい言葉です。これに関する情報は慎重に接する必要があるといえるでしょう。
しかし病気になりにくい強い身体をつくりたいというのは、古来からずっと人々の願いでもありました。それが生活の中の工夫でできることであれば、多くの人の興味を引くのは当然のことでしょう。私から可能なアドバイスがあるとすれば「よく眠ってください」というのがその一つです。
私たちの身体にはナチュラルキラー細胞(NK細胞)が関与する、いわゆる自然免疫があります。NK細胞はリンパ球の一種で、ガン細胞やウィルスに感染した細胞など、身体にとって脅威となる細胞を見つけ出しては殺す役割を担っています。このNK細胞の働きをNK活性といいますが、強いストレスに晒されることなどによって、このNK活性が弱まることが分かっています。
残念なことですが、ハラスメントに遭ったり、事件や事故に巻き込まれてしまったりした方が、その後体調を崩されることがあります。これはNK活性が弱まってしまったことと無関係ではないかもしれないのです。心と身体の健康には相関関係があると考えてよいでしょう。
そしてここに深くかかわってくるのが、睡眠なのです。
眠る時間は、心身の癒やしの時間です。身体を弛緩させて休めるだけでなく、脳そのものもメンテナンスされる時間であり、心理状態の改善にも寄与しているです。良い眠りによってストレスから解放されることが、NK細胞の活性化に関係しているのではないかと考えることもできるでしょう。
眠ることが楽しみになるといい
このようなお話しをすると、真面目な方の中には「ちゃんと眠らなくてはならない」と考えて、かえって眠りが緊張の場になってしまうこともあるでしょう。しかし、それでは眠ることがプレッシャーになってしまい、逆に眠ることが難しくなってしまいます。
本来、眠ることは気持ちのいいこと、楽しみであるはずのことです。ストレスを緩和するためにも、「きちんと寝る」「7時間睡眠を目指す」といった気負いをもたず、眠ることを楽しみにできる工夫ができるといいと思います。
例えば、肌触りのいいシーツを用意する、お気に入りのアロマを焚く、心地の良い音楽を流す、身体にフィットする枕を使う……。思い描くだけで寝室に行くことが楽しみになるような工夫をしてみましょう。
また、お気に入りの寝具を揃えることも、きっと楽しみの一つになるでしょう。日常のなかにある眠りを楽しむこと。ぜひ「免疫力」に興味を持つ方がやってみてほしいトライアルです。おいしい食事を楽しみにするときのように、気持ちの良い眠りも、ぜひ楽しみにしてください。