脳科学者・中野信子が考える「眠り」のチカラ
#6 昨日眠った自分は、今朝起きた自分と同じ?
脳科学者 中野信子さん
脳科学にまつわる多数の著作を発表し、人の行動や思考の習性について解説を重ねてきた中野信子さん。実は、ロフテーのLT-010(キューブ)を愛用しています。中野さんが枕選びにこだわるのは、睡眠の重要性をよく知っているから。
この連載では、中野信子さんが考える眠りのチカラについて紹介していきます。
脳科学的に夢を分析!
レム睡眠とノンレム睡眠という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。夢を見る睡眠がレム睡眠、夢も見ずにぐっすり眠るのがノンレム睡眠で、一般的には大脳が休息するノンレム睡眠の方が重要だといわれています。
しかし最近では、レム睡眠は記憶の整理に役立っていると考えられるようになってきました。様々な記憶を描き出すことで、その整合性を図っているようなのです。そしてその働きによって、私たちは自分を認知できているようです。
昨晩眠った自分と、朝起きた自分は本当に同一人物だと言えるでしょうか。そう言えるのは、私たちの脳に記憶の連続性があるからです。当たり前のように感じるかもしれませんが、実はこれはすごいことなんです。
というのも、人間は複雑な社会性を持つ生き物です。社会に暮らしていると、大抵は複数の集団に属します。そして複数の役割を担うことになるのです。母である自分と、妻である自分、上司である自分と、部下である自分、お客さんや生徒や先生になることもあるでしょう。集団のなかではそれぞれの時間が流れていて、そのときどきで異なる振る舞いを求められます。それでも、私たちが自己をばらばらにしてしまわないで、統合していられるのは記憶が整理されてつながっているためです。
出会うはずのない人物同士が一緒にいるという夢をみたことはありませんか? これはまさに記憶を統合するために起きていると考えられます。現実にある複数の社会が、脳のなかで一つに統合されていっているのですね。
夢に関していえば、もう一つ面白い話があります。夢で見る景色にはとても美しいものがありますよね。まるで名画を見ているようなドラマチックな色彩が溢れることもあると思います。これは前頭葉が情報、情動の処理を視覚的に行っているからではないかとされています。記憶の処理中にそこが働いて、美しいものを感じることができる、と考えられるのです。
睡眠環境を整えて穏やかな睡眠を
このコラムでは、眠ることを楽しみにできるように工夫しましょうという提案をしてきました。けれど、人間の眠りはなかなか繊細。屋根さえあれば眠れるという逞しい人もいますが、環境が整っていないと入眠できない、あるいは中途覚醒してしまう、という人は少なくありません。それが昂じて、眠りに対して恐怖を覚えてしまう方もいらっしゃいます。「眠らなければならない」というプレッシャーがストレスになってしまうのですね。
私の知人にも眠るのが怖いという時期がありました。しかし、よくよく話を聞いてみるとどうやら寝室の温度が適切でなく、夜中になると温度が下がりすぎていたようでした。環境が合っていなかったため上手に眠ることができなかったのです。そこで、部屋の気密性や寝具を工夫したところ気持ちよく眠れるように。私自身はきちんと計測してから選んだ枕を使用するようにしたのですが、この枕を使うようになってから毎晩頭を沈める瞬間が楽しみになりました。
眠りには、ご自分で意識されている以上に、重要な役割があります。とても大切なものですから、眠りに関する一つ一つのことを丁寧に見直してみて、日々気持ちがよく眠れるように環境を整えていかれることをおすすめします。