脳科学者・中野信子が考える「眠り」のチカラ
#3 宵っ張りのティーン・エイジャー
脳科学者 中野信子さん
脳科学にまつわる多数の著作を発表し、人の行動や思考の習性について解説を重ねてきた中野信子さん。実は、ロフテーのLT-010(キューブ)を愛用しています。中野さんが枕選びにこだわるのは、睡眠の重要性をよく知っているから。
この連載では、中野信子さんが考える眠りのチカラについて紹介していきます。
成績を伸ばしたければ朝寝をさせよ
前回、人には生まれ持ったクロノタイプがあるというお話をしました。朝型のタイプと夜のタイプでは、それぞれ力を発揮できる時間が異なるという内容です。
実は、力を発揮できる時間帯は年齢によっても差があります。
一生のうちで最も夜型になるのが10代の後半。多くの人はそこから徐々に朝型へと移行していきます。高齢者に早起きが多いのはこのため。早起きは年を経たことで自分をコントロールができるようになったのではなく、加齢による自然な変化一つなんです。
だから私は、中高生に無理矢理朝早くから勉強させることには反対。彼らは遅い時間の方が元気なのですから、できるだけ活動の時間帯を遅い時間にずらしてあげればいいんです。それができないのは、きっと大人たちの事情でしょう。若かりし頃の記憶が遠のき、加齢による自然な変化で朝が得意になったことをご自身の努力と錯覚なさったご高齢の方が社会運営の決定権を持っている場合がしばしばであることにも理由がある、と考えるのは穿ちすぎでしょうか? ともあれ、若者に成長の機会を与えたいのであれば、もっと若者が活躍できる時間の使い方をするべきでしょう。
学校や塾では、受験のときに力を発揮できるよう、試験の時間帯に合わせて勉強をするようカリキュラムを組むことがあるようです。そのような考え方も理解できなくはないですが、最も大切なことは子どもにきちんと実力をつけさせることではないですか。そう考えると、頭が働かない朝に無理やり机に向かわせるよりも、脳が明晰に動く時間に頑張る方が合理的です。朝はゆっくり寝て、夕方から夜にかけて頑張れる環境を用意してあげることも時には必要です。
夜の勉強が合理的であるもう一つの理由
夜に勉強に励むことにはもう一つメリットがあります。夜寝る前の勉強は、記憶が定着しやすいんです。 1880年代、ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスが「忘却曲線」を提唱しました。このエビングハウスの忘却曲線はよく知られていると思いますが、さらに近年、記憶に関する研究はより進められてきています。たとえば、より効率的に記憶をするには、覚えた直後に睡眠をとることが望ましいことが明らかになっています。 このことからも頑張って早起きして勉強をするよりも、活動的な夜の時間に机に向かう方が、学習内容によっては合理的なことが説明できます。
逆に、最も記憶の効率が悪いのが徹夜による勉強。これは朝に勉強をしたときと比べても記憶の定着率は低くなります。記憶を「漬ける」ことは重要ですが、「一夜漬け」は非効率だというわけです。
人間の脳は眠っている時に記憶の整理をしています。成績を伸ばしたければ、きちんと眠ることが大切です。