脳科学者・中野信子が考える「眠り」のチカラ
#2 夜型人間だっていいじゃない
脳科学者 中野信子さん
脳科学にまつわる多数の著作を発表し、人の行動や思考の習性について解説を重ねてきた中野信子さん。実は、ロフテーのLT-010(キューブ)を愛用しています。中野さんが枕選びにこだわるのは、睡眠の重要性をよく知っているから。
この連載では、中野信子さんが考える眠りのチカラについて紹介していきます。
朝型人間以外が「だめ」なわけではない
日本人は真面目な方が多いので、朝起きられないことを「だめなこと」と捉えがちです。しかしもともと人間には早起きが得意なタイプと、夜遅くまで元気でいられるタイプがおり、これはある程度遺伝の影響を受けているといわれています。
こうしたタイプのことをクロノタイプと呼びます。クロノタイプは朝型が1割、夜型が1割。残りの8割の人々はどちらでもないため、生活習慣などに影響を受けて一日のリズムが決まっていきます。
生まれもったクロノタイプは変えることが難しいため、生活リズムを無理に変えようとしてもあまりいいことはありません。
例えば、夜型のタイプに朝早くから勉強や仕事をさせようとしても効率が落ちるだけ。逆に朝型のタイプが夜遅くまで頑張っても思うように成果はあがらないはずです。実際に、朝型のスポーツ選手はナイトゲームでは成績が落ちるという話があります。
ですから、夜型の人が朝ゆっくり寝ていることは決して怠惰なのではありません。自分の身体にあった時間に活動する方が合理的なんです。子どもの教育者やアスリートの指導者などは、この点をよく理解してあげる必要があるでしょう。むやみに叱ったり、朝型の生活を強制したりするようなことがあれば、その人の良さが埋もれてしまうどころか、自信をなくし、健康を害してしまうことにも繋がりかねないのです。
今の生活があまり身体に合わないと感じているのであれば、まずは生まれ持ったリズムを知ることが大切です。
なぜ朝に出勤しなくてはいけないの?
そもそもの話として、朝無理に身体を起こして、満員電車に揺られ、定時にあわせて通勤・通学するという生活は理にかなっているのでしょうか。コロナ禍によってリモートワークが普及したことで、皆さんも気づきはじめているのではないかと思います。社会が強制的に時間と身体を拘束することの無意味さについて。
朝早くに出勤をさせるのは、朝礼のためなどではないですか?顔を突き合わせなければ情報伝達が難しかった50年前には、確かに就業前に社員が一堂に会することは合理的でした。しかし、今の時代ではどうでしょう。一方的な情報伝達であれば、オンラインで充分です。出勤は必要な時間に必要なときだけに抑えれば、満員電車で疲弊する必要はなくなります。夜型の人であれば、朝はできるだけゆっくり起きて自分が一番力を発揮できるタイミングで働く方が業績を伸ばせるのではないでしょうか。
体内時計と社会的に要請される時間軸のズレをソーシャルジェットラグ(社会的時差ボケ)と呼びます。合わない時間帯で生活することは、時差ボケの状態で生活していることと同じなのですね。
私たちが人それぞれに異なる体内時計を持っていることがわかった今、社会における時間の使い方も変わっていくべきだと思います。