脳科学者・中野信子が考える「眠り」のチカラ
#1 眠れなくなった私たち
脳科学者 中野信子さん
脳科学にまつわる多数の著作を発表し、人の行動や思考の習性について解説を重ねてきた中野信子さん。実は、ロフテーのLT-010(キューブ)を愛用しています。中野さんが枕選びにこだわるのは、睡眠の重要性をよく知っているから。
この連載では、中野信子さんが考える眠りのチカラについて紹介していきます。
私たちの眠りをコントロールする「光」
厚労省の調査によれば、現代の日本では5人に1人が「眠れない」「睡眠で疲れがとれない」といった眠りに関する悩みを抱えています。
その理由の一つが、夜が明るすぎること。現代ではベッドに入る寸前まで部屋の明かりが煌々とついていることはほぼ当たり前ですし、リラックスタイムに光を放つ電子媒体を見つめていることは珍しくありません。そして、この夜間のスマホやタブレットの使用が特に入眠を妨げるものになっています。
人の身体にはリズムがあり、さまざまなホルモンがこのリズムを刻むのに役立っています。夜に眠気を誘うのはメラトニンというホルモン。現在では不眠の方向けに医薬品(一部海外ではサプリメント)として発売されていますが、本来は体内で合成される物質です。
メラトニンは、セロトニンという物質が変化することで生成されます。セロトニンは朝に光を浴びることで生成されるホルモン。これがおよそ15時間後にメラトニンに変化するのです。朝7時に起きて朝日を浴びると、ちょうど22時ごろから眠気がやってくる計算になります。
ところが、夜間になってもスマホなどの光を見つめ続けているとメラトニンがうまく合成されません。逆に目を覚ましてしまうセロトニンが再び増えてしまい、脳が活動をしようとしてしまうのです。これでは、眠ろうとしてもうまくいきません。眠気がやってこないわけですから。
さらには、近年はコロナ禍で外出の機会が減ったことでセロトニンが生成される機会が減ってしまいました。メラトニンの原料がないわけですから、やっぱりうまく眠ることができなくなるのです。
コロナ禍においては人に会えないことのストレスや運動不足などさまざまな不調の理由が発生していたと思いますが、睡眠のリズムが乱れたことによる不眠もかなりの不調の原因になったことでしょう。
まずはぼうっと朝日を浴びてみる
このように生じる不眠への対処方法は大きくわけて2つ。朝に日光を浴びることと、夜は光をみつめすぎないこと。
まず、朝に日光を浴びることですが、とくに気合を入れたことをする必要はありません。毎朝外に出て運動をしてくださいとおすすめもできますが、現実的には、多くの人は継続的に行うことが難しいようです。とにかく、カーテンをあけて光を感じてみましょう。寝ぼけ眼でぼうっとしているだけでも充分です。ゴミを出しに行くことができれば、なおいいと思います。
それから、夜はできるだけ目に入る光の量や強さを抑えてください。スマホやタブレットをどうしても使用したい場合はブルーライトカットの製品やアプリを使ってみましょう。いくらかはマシになるはずです。
禁物なのは「夜はちゃんと眠らなければならない!」とプレッシャーをかけてしまうこと。肩に力が入ってしまうとますます眠りから遠ざかってしまいます。「眠らなければならない」ではなく、「眠りたいな」と自然に思えるようにまずは自分をリラックスさせられる方法を探してみるといいと思います。
お気に入りの音楽を流す、アロマを焚く、肌触りの良いパジャマを着たり、身体にフィットする枕を使ったりするなど、ベッドへ行くことを楽しみにできる環境づくりをすることがおすすめです。